コワーキング協同組合では本サイトの開設に際して、日本のコワーキングの実情を把握するために、コワーキングの利用者と運営者のそれぞれを対象にアンケート調査を実施しました。実施期間はわずか2週間でしたが、現状を現す数値だけにとどまらず、今後の動向を探るヒントになる興味深い回答も得ることができました。

ここでは、その結果を踏まえてコワーキング利用者がどんな目的や思いを持ってコワーキングを利用しているのか、その生の声をピックアップして現在地点を確認しつつ、今後のコワーキングについても考察を加えてみたいと思います。

なお、年齢、性別、地域、職種などの定量データを含め、アンケート結果の全データ(PDFファイル)は以下からダウンロードいただけます。本記事は、そのファイルを参照いただきながらお読みください。

【利用者用】コワーキングスペースアンケート調査20200224.pdf

なお、アンケートの自由回答については、この記事ではすべてを詳しく紹介していませんが、運営者にも利用者にもヒントになるコメントがきっとあるはずですので、ぜひ、PDFにてご一読ください。

実施期間:2020年1月18日(土)〜2020年1月31日(金)
回答者数:132人

ユーザー・プロフィールの多様化

Q1の「年齢層」に関しては、予想に反して20歳代が少なかったのに対して、逆に40歳代、50歳代が目立ちました。ただしこれは、Facebookを主な告知手段に使ったことが関係しているのかもしれません。告知手段については、次回への改善課題にしたいと思います。

Q3の「コワーキングを利用して何年になりますか?(※国内のコワーキングに限る)」という質問に対しては、1年未満が12.9%、1年〜2年未満が15.9%、2年〜3年未満が17.4%と、3年未満の利用者が半分近くを占めており、比較的最近にコワーキングを利用する人が増えてきていることが伺えます。

これは、逆にコワーキング運営者編のアンケートで「コワーキングを運営して何年になりますか?」との質問に、3年未満の回答が半分を超えていることと相関関係にあるかもしれません。いずれにしても、ここ3年でコワーキングの認知度が高まってきたと言えそうです。

Q4の「どの地域のコワーキングを使っているか?」の回答はPDFのグラフを見ていただくとしまして、Q5の業種、Q6の職種を少しチェックしておくと、IT、ウェブ、コンサル、デザイン系は予想していましたが、少々意外だったのが「放送・出版・マスメディア」が14名(10.6%)もおられたことです。

いわゆる「マス」の仕事をするワーカーが、果たしてコワーキングという環境をどんな風に使っているのか、企業に勤める人もコワーキングを利用しだしているということと関係しているのかもしれませんが、ここはもっと詳しく訊くべきでした。これも反省点です。

なお、自由回答欄に寄せられた業種、職種は、運営者にとっては地域内のどういう層にフォーカスするかを考えるヒントになり得ます。中でもカメラマン、医療関係、リフォーム、アート、音楽制作、ヘルスケア、6次産業、NPOあたりは回答数は少ないですが、どこの地域でも掘り起こせる利用者層かもしれません。

また、従来、IT・ウェブ系のワーカーに偏りがちだったコワーキング・ユーザー像も、徐々に多種多様な事業領域のワーカーたちに利用されるようになってきていることは確かです。かつ、企業も今後はリモートワーク化を進めることが必至なことから、コワーキングがさらに多様なワーカーが交差するハブとなるのは明らかです。

利用パターンに見るドロップインの有意性

ここで、ワーカーのコワーキングの利用の仕方にも注目しておきましょう。

Q7の「どのパターンでコワーキングを利用しているか?」に対して、回答者の半分以上がドロップインを利用しており、「マンスリーと両方で利用している」という回答と合わせると実に73%を超えています。

それは、次のQ8「会員限定(クローズド)のコワーキングとドロップイン(オープン)のコワーキングのどちらを好むか?」の問いに対して、実に90.9%が「会員とドロップインの共存でOK」と回答していること、さらに、Q9の「現在、何ヶ所のコワーキングを利用しているか?」に対して「2〜5ヶ所」との回答が半分以上あることともシンクロします。

ある特定のコワーキングスペースを会員限定的に利用するよりも、その時の用途に合わせて複数のコワーキングを使い分けている、非常に柔軟な利用パターンが見て取れます。そして、これらはすべて一時利用者を受け入れる「ドロップイン」という、コワーキング本来の価値の提供が前提になっています。

ドロップインによって新しい人のつながりを実現し、それを起点にコミュニティとして機能する、そのプラットフォームとなるのがコワーキングであるとするならば、現代のコワーカーはその意味を正しく理解し、うまく活用していると言えます。

利用の動機も人とのつながり

さらにこのことは次のQ10「コワーキングを使い始めた目的・動機はなにか?」という質問の回答を見てもそう言えます。

「廉価に使えるオフィスが必要だった」「ホームオフィスに限界を感じた」「駅から近かった」が上位に来るのは予測できたことですが、「情報共有できる仲間がほしかった(増やしたかった)」が31.8%、「仕事に役立つ勉強会に参加または主催したかった」が28%、「仕事以外のイベントに参加または主催したかった」が26.5%と、いずれも人との接点、交流を求めていることを示しています。

この傾向は、リモートワークがこれからの働き方として常態化するに伴い、自身のネットワークは自分で作らねばならない時代になることを考えた時、コワーキングがそのサポートをするひとつの選択肢になり、利用者からもそう期待されていることを示唆しています。

そして、このグラフでは目立ちませんが、「ビジネスパートナーを得たかった」が10.6%あることに注目しておきたいです。今回のアンケートでは深掘りしませんでしたが、コワーキングが「作業」するだけの環境ではなく、起業仲間を見つけてビジネスを興す、いわばインキュベーションの場としても機能することが、ユーザーからは期待されていると考えていいでしょう。

さらにもう一点、「運営者のキャラクター(個性、専門領域)が気に入ったから」が26.5%と上位に位置します。ここでも、コワーキングが施設や設備などのハードウェアよりも、運営者のホスピタリティやコミュニティマネジメントのスキルなど、「人」というソフトウェアの面が問われていると言えるのではないでしょうか。そしてそのことは、後述のコミュニティマネージャーについても同様です。

一方で、Q12の「当初の目的が達成できていない理由は?」の問いに対して、自由回答の中に、「東京ではコミュニティマネージャーが色んな人とつないでくれたが京都ではそうではなかった」といった地域またはスペースによって差があること、また、「集中して仕事ができることと、人と出会える場であること、その2つが両立できるコワーキングに出会えていない」といった、コワーキング利用者の本音のところが満足されていないということには注意を払っておきたいです。

こんなコワーキングであってほしい

では、そんなコワーカーの「理想とするコワーキング」とはどんなコワーキングかというQ13の回答も興味深い結果です。

そのトップ3は、「飲食OK(80.3%)」、「時折雑談(コミュニケーション)してもOK(68.9%)」、「集中スペースとコミュニケーションスペースが分れている(68.2%)」でした。飲食が可能な環境が望まれているのは、Q16の「これがあったらもっとウレシイのは?」の質問で、「カフェ・バー・飲食コーナー(53.1%)」がトップであったこととも符合します。

ただし、ここで注目すべきは、2位に「時折雑談(コミュニケーション)してもOK」が来ており、単にカフェを設えるだけではなく「コミュニケーション」が前提であるということです。つまり、ここでもやはり求められるのは「人とのつながり」です。

上記のトップ3の回答に続くのが「相互に知見や情報を共有して共に学び合える(58.3%)」、「自分も人のために協力する機会がある(56.1%)」、「必要に応じて人を紹介してくれる(49.2%)」、「定期的に利用者が交流する懇親会がある(45.5%)」、そして「困ったときに仕事仲間が助けて(手伝って)くれる(39.4%)」と、いずれも他者との関わりを重視する傾向にあり、オンラインではなく「オフラインでの他のコワーキングとの交流会(25%)」という回答も目を引きました。それはまた、コミュニティの一員としてそこに参加し、互いに寄与貢献するというコワーキングの本質が理解されていることを物語っています。

なお、「これがあったらもっとウレシイのは?」に対しては、「電話・TV会議ブース(43.2%)」と並んで「仮眠室(42.4%)」が上位ですが、さらに「宿泊設備(もしくは宿泊施設との提携関係)(28%)」が上がるところなどは、今後、増加することが確実である移動しながら仕事をするリモートワーカーの要求としては当然と考えられます。

また、「他のコワーキングとの共通利用券」が28.8%と、リモートワークが多拠点ワークプレース化を加速している様子が伺えます。これは「他のコワーキングとの交流会」を求める声とも関係していると思われます。

また、このアンケート結果では目立ちませんが、今後、託児施設付きのコワーキングとメンタルヘルスケアをサービスメニューに盛り込んだコワーキングは、今後、日本でも普及する可能性は高いという観測もあります。

なお、自由回答に「キッチン」が1件ありますが、これを選択肢のひとつに加えていなかったのはアンケート実施者のミスです。今どき、コワーキングにキッチンは必須であるということは言うまでもない、という考えが無意識に働いていたためだと思われます。これも反省点です。

メンバーシップとオーナーシップ

Q17「イベントに参加したことがあるか?」の回答において、「ある」が84.1%とあるように、すでにコワーキングはイベントとセットであることが分かります。それはもちろん、仕事や活動に直結するテーマであればこそですが、同時に利用者同士をつなげる機会にもなり、それもまた利用者の要求するところだと言えます。

そして、Q18「自身でイベントを主催したことがあるか?」に対しては、半分近くの方が主催されていました。このことは、コワーキングのメンバーであることだけでなく、そのコワーキングを活用して自分のコミュニティを拡張することに勤しんでいる方が半数近くいるということとして注目に値します。つまり、メンバーシップを持ちつつも、その環境を上手に利用してオーナーシップを発揮する機会を得ているということ、これは実はコワーキングの隠れた魅力のひとつです。

そのことはQ19「自分でもコワーキングを運営してみたいと思うか?」に対して、「思う」と24.2%の回答があることと関係しているかもしれません。初期の頃の日本コワーキングは、勉強会などのイベント会場を自前で持つという発想からはじまったケースが少なくないからです。

コミュニティ(コワーキング)マネージャーの存在

さて、Q20「コワーキングを利用してよかったことは?」に対しての自由回答ですが、実に興味深い回答の数々ですので、ぜひ、全回答を閲覧ください。

目立つのはやはり、「新しい仲間ができたこと」、「知らない情報や人に繋がれたこと」、「人と交流できること」など、人との関わりに関することですが、中には「人生が変わった」という方までおられます。人は一人では生きていけない、誰もが仲間を求めている、それを解決するのがコワーキングと言えそうです。

ではどうやってそうした新しい人間関係が起こるのかと考えた時、そこをサポートしてくれる、いわゆるコミュニティ(コワーキング)マネージャーの存在が重要になってきます。ここでは、「人を紹介してくれる」と回答した方はわずかですが、大なり小なり、この立場にいる方の役割がモノを言っているのはほぼ間違いありません。

言い換えれば、コミュニティの質はコミュニティマネージャーの働きによると言っても過言ではありません。それはコミュニケーション能力だけではなく、企画力、ビジネス感覚、情報収集力、ネットワーク構築力、加えておせっかいや他人を巻き込む作法に長けているなど、ありとあらゆるスキルとセンスを要求される、非常に難しい職種です。ちなみに「マネージメント」とは「管理すること」ではありません。「お世話する」という意味です。

生活圏内に必須のインフラとしてのコワーキングへ

最後のQ22「利用者として、今後、コワーキングに望むことは何ですか?」に対する自由回答では、実にさまざまな示唆が得られます。これも、是非、閲覧いただきたいですが、一部、紹介します。

・ドロップイン可能なコワーキングかどうかわかりづらいスペースが多いのでGooglemapからちゃんとわかるようになっていると嬉しい。

・スタッフからの声かけは「いらっしゃいませ」でなく「こんにちはorおかえりなさい」。

・コワーキングスペース間の連携や交流ってもっと増えても良いと思う、あと企業が率先して投資するプレイヤーを探せる場に開けてると面白いと思います。

・コワーキングスペースの立地する街固有のコミュニティとの「繋ぎ役」としての活動。

・国内だけでの展開ではなく海外からも積極的に人を受け入れる努力。

・入居者同士はもちろん、コワーキング間での交流や、地域を跨いだ交流が活発になると、よりインタラクションの多いエコシステムを構築することができると思う。

・子供がまだ小さいので、子連れで利用出来る施設があると有り難い。  

…など。

ここで、ひとつ考察を加えるとしますと、コワーキングはすでに生活圏内に必須のインフラになりつつあるということ、それをユーザーは自由選択で、かつ多拠点で利用するフェーズに入っていること、そしてそれは取りも直さず、自身で自分の人的ネットワークを築くのにコワーキングを利用することが有意であることの証左であることです。

そして、こうしたコワーキングの持つポテンシャルをまちづくりに活かさない手はありません。昨今、地方自治体が主体もしくは協業関係となってコワーキングを運営する事例が散見できますが、いわば町の公民館的な役割がコワーキングに期待されているということでもあり、今後、町のインフラとして行政と民間の共同体としてのコワーキング運営が当たり前になるのも時間の問題と思われます。

以上、2020年1月18日(土)〜2020年1月31日(金)に行われたアンケー調査結果について解説しました。

ご協力いただきました皆さま、誠に有難うございました。

(2019年度コワーキング白書)

Photo by Atlas Green on Unsplash