コワーキング協同組合では本サイトの開設に際して、日本のコワーキングの実情を把握するために、コワーキングの利用者と運営者のそれぞれを対象にアンケート調査を実施しました。実施期間はわずか2週間でしたが、現状を現す数値だけにとどまらず、今後の動向を探るヒントになる興味深い回答も得ることができました。

ここでは、その結果を踏まえてコワーキング運営者がどんな目的や思いを持ってコワーキングを運営しているのか、その生の声をピックアップして現在地点を確認しつつ、今後のコワーキングについても考察を加えてみたいと思います。

なお、年齢、性別、地域、職種などの定量データを含め、アンケート結果の全データ(PDFファイル)は以下からダウンロードいただけます。本記事は、そのファイルを参照いただきながらお読みください。

【運営者用】コワーキングスペースアンケート調査-20200224.pdf

なお、アンケートの自由回答については、この記事ではすべてを詳しく紹介していませんが、運営者にも利用者にもヒントになるコメントがきっとあるはずですので、ぜひ、PDFにてご一読ください。

実施期間:2020年1月18日(土)〜2020年1月31日(金)
回答者数:67人

運営者のプロフィール

運営をはじめてから3年未満のスペースが全体の50%を超えています。「利用者編」でも言及しましたが、ここ3年未満でのコワーキング利用者が多いことと関係していると思われます。

また、運営主体は企業が62.7%と個人事業者の29.9%の倍近くあります。以前でしたら、自らコワーキングをする人が自らそのニーズがあってコワーキングを立ち上げるというパターンが多かった印象ですが、ここ数年でのコワーキングの社会的認知度あるいは需要度の高まりと相まって、事業としてのコワーキングという考え方が広まっていることが伺えます。

なお、女性運営者は全体の23.9%(16件)でした。調査対象が多くないことも原因かもしれませんが、しかし、これも一時のことを考えると増加傾向にあるようです。それはまた、利用者層の多様化とも関係します。女性コワーカーが増えるに従って、彼女たちのニーズに応えようとする女性運営者が現れるのは自然な流れです。

同様に、学生だけのコワーキングや特定の職種だけのコワーキングも実際にあります。コワーキングの価値として利用者層の多様性がもたらす新しい人間関係が挙げられますが、特定の属性のコワーカーをサポートするのもコワーキングのひとつのあり方です。その場合、他のコワーキングと交流することで、多様性は担保できます。この、他のコワーキングとの交流、アライアンスは、例えばイベントを共催することできっかけをつかむ事が可能です。そこを起点に、コワーキング同士が協業関係を結ぶ動きもそろそろ日本でも現れると考えられます。まさに、コワーキングの5大価値のひとつ、「コラボレーション」です。

それに関連しますが、コワーキング運営と情報共有のためのウェブサービス(あるいはツール)の導入を考えるコワーキングも増えています。簡単な入退管理から利用料金の管理、イベント告知から参加者リストの作成、果てはメンバー間のコミュニケーションツールの実装まで、多彩なサービスが存在します。(当組合では、近く、このコワーキング管理サービスのオンラインセミナーを開催の予定です)

なお、Q6の「運営スタッフ数」に関しては、2〜5名が62.7%、次いで1名が20.9%と、比較的少人数でオペレートされているのが分かります。これはまた、運営者のキャラクタライズにも影響することは容易に想像できます。

ちなみに、利用者でありながら運営にも関与するという共同運営スタイルもちらほら現れています。本サイトのリポートに登場する滋賀県守山市のROOTさんもその一例ですが、「運営者 VS 利用者」ではなく、「運営者 WITH 利用者」の関係が発展したものと考えられます。そもそもコワーキングはそこに集う者同士がお互いに寄与貢献する精神がなし得るものですが、共同運営という形態はまさにその理念に合致するものとして特筆しておきたい事項です。

マンスリー会員数を問うQ9で目を引いたのは「マンスリー契約はしていない」の回答が14.9%あったことです。通常、コワーキングの安定収入源のひとつとして定額の利用者をある程度確保するというのが常道ですが、どういう事情でそういう選択をしたのか、席数を考慮すればドロップインで不特定多数の利用者に提供するほうがビジネス的にもよかったのか、あるいはドロップインこそがコワーキングの王道であると主張されているのか、次回の調査では深掘りしたいところです。

やはり多様な利用者層

利用者の業種、職種を問うQ11では、IT、ウェブ、デザイン系が多いことは想像できましたが、学生が25.4%、主婦(主夫)が19.4%、そして公務員が14.9%おられることには注意を払っておきたいところです。学生は単に勉強の場として利用している可能性が高いものの、学生起業家をインキュベートするコワーキングも実際には存在します。また、育児をしながら仕事をする主婦たちもコワーキングの利用価値を十分に認識しており、前述の女性だけのコワーキングもそのひとつの典型と言えます。

興味深いのは公務員の利用です。このアンケートにおいては自治体運営のスペースも回答者におられるので、あるいはその関係者の利用かもしれませんが、「利用者編」でも述べたように、まちづくりにおけるコワーキングが地域の人々をつなぐインフラとして機能することを認識できているとするならば、地方自治体が主体となるか、あるいは民間業者と協業関係を結んでコワーキング運営に乗り出すのは自明の理です。まして、業務の場として公務員自らコワーキングを利用するということになれば、より市民との距離を縮め、市民のための施策をより具体的に展開できる可能性も否定できません。

またこのことは、Q17の「開業にあたって補助金は活用したか?」の問いに対して、「活用した」の回答が22.4%にとどまっていることにも関係します。一部の地方自治体では、特定の地域にコワーキングを開業する際に補助金を支出しますが、まだごく一部です。地域社会に必須のインフラとしてコワーキングを整備するという目的である場合、何らかの資金的サポートは不可欠と考えます。

コワーキング運営者の実像

Q12の「コワーキングを開業前に自ら利用したことはあるか?」の問に対して「ある」と答えた回答者が74.6%、事前に市場調査をされたのが62.7%でした。

法人としてコワーキングをされている回答者が多いので、これは当然の数字と言えるでしょうが、Q16の「運営のための有益な情報はどこから得ているか?」の問いに、「利用者から直接」が53.7%あったことからは、コミュニティ内での利用者との対話を重視している運営者の姿が垣間見えます。

また、「同業者から直接」が50.7%あったことも、前述、他のコワーキングとのコラボレーションがすでに実行されていること物語っているのではないでしょうか。

さて、Q18の「コワーキングをはじめた動機はなにか?」の問いに対する回答も注目です。

「フリーランスや小規模事業者が協業するためのコミュニティを作ろうと考えたから」が56.7%でトップで、次いで「地域の住民が交流できる場所を作りたかったから」が40.3%、他に「異業種間での交流う関係を広げたかったから」が35.8%と、やはりここでも人間関係をつなぐ縁としてのコワーキングが浮き彫りになります。

併せて、Q19の「コワーキングの価値とはなにか?」の問いに、「(仕事関係に限らず)人をつなぐネットワークの存在」が実に71.6%、さらに「相互の助け合うシェア(互助)の精神」が56.7%、「ローカルコミュニティ、地域住民の交流の場(公民館みたいな)」が50.7%、「同業者または異業者とのコラボレーション」が同じく50.7%と、ここでも人間関係が強く意識されているのが分かります。

コワーキングというと、ノートパソコンを持ち込んでWi-Fiにつなぎ、ヘッドフォンをして誰とも口を利かずに「集中」して仕事をするというイメージがありますが、本来は他のワーカーとの共用スペースであり、共用である限りはそこにお互いを繋げる共通項があるはずです。多くのコワーキング運営者が、そこに心を砕いていることがこの数字から伺い知れます。

Q20の「コワーキングと併せて行っている事業」も興味深い結果です。貸し会議室やイベント会場は想定内でしたが、「カフェ、レストラン等飲食業」が17.9%、「ホテル、ゲストハウスなどの宿泊業」が9%と、数値は小さいものの、今後、リモートワーカーが増えていく中、移動先での滞在を前提とした働き方をサポートするためのコワーキングにとって最適なコラボがすでに立ち上がっているということは要チェックです。

なお、自由回答にある「アートインレジデンス」、「キッチンスタジオ(シェアキッチン)」も、これからの町のインフラ、もしくは人が交差するハブとしては無視できない要素です。また「UIターンのサポートセンター」という役割もリモートワーク時代の必須事項かもしれません。これも次回の調査の際には深掘りしたいテーマです。

コワーカーの協業状況

さて、Q21の「知り合った者同士で立ち上がった協業プロジェクトはあるか?」に対して、「ある」と答えた回答が62.7%あったのは、コワーキングの面目躍如といったところですが、一方でQ22の「利用者同士で設立された法人はあるか?」に対して、65.7%の回答が「ない」でした。ただ、ビジネスを行うのに必ずしも法人設立が必要とは言えません。むしろ、現代のワーカーにとっては「会社」よりも「プロジェクト」単位で仕事に取り組むほうを好む傾向があると見るべきと言えます。

Q23の「他府県から移住してきて利用者になった人はいるか?」に対して、「いない」と回答したのは26.9%で、「1〜5名」の回答が47.8%と半数近くありました。この数値はこれまであまり計測されてなかったのではないかと思いますが、近い将来、リモートワークがごく普通のワークスタイルになることが確実ないま、すでにワーカーの移動ははじまっていると見たほうが妥当と言えます。

イベント企画と充実させたい設備

コワーキングでのイベント開催回数を問うQ24の回答は意外な結果でした。「運営者主催で月に1〜5回」が61.2%と圧倒的一位でしたが、意外と少ない印象を受けます。次いで「利用者が主催で月に1〜5回」と、利用者の開催についても同様、少ないです。

コワーキングの利用者を増やす方法のひとつはイベント開催ですが、それには時節に応じた、また、利用者の要望に適うテーマを選定して企画しなければなりません。実はコワーキングの運営に際しては、このイベント企画が肝要であり、かつまた、毎回テーマを創案しなければなならない運営者の悩みどころでもあるのは事実です。

しかし、利用者増員を目的に創業2ヶ月後からほそぼそとイベント企画を開始し、いまでは年間1,000本ものイベントを開催するコワーキングも存在し、着実にユーザー数を伸ばしているのも事実です。あまり意識されていないことかもしれませんが、利用者は何かきっかけがなければはじめてのコワーキングにはなかなかやっては来ません。その最も分かりやすいきっかけがイベントです。それには、利用者と一緒になってテーマを決めていく体制を創ること、これがイベント企画の要諦です。

今回はQ25で「利用者に勧めたいイベントやセミナー、勉強会のテーマ」を回答いただきましたが、これを利用者にもヒアリングするのです。そこには、運営者側の発想とまた違うテーマが必ずあります。それをすくい取って企画することで、より利用者にとって居心地のいいコワーキングになるはずです。

Q27の「施設、設備として充実させたいもの」では、「高速WiFi」や「電話ブース・TV会議室」は当然として、「仮眠室または宿泊設備(または宿泊施設との提携)」が25.4%、「トレーニングジム(またはフィットネスクラブとの提携)」が20.9%と、コワーキングが複合的な単なる「仕事場」だけではなくて価値を提供することを期待されていると言えます。これは一方で、席料だけではなかなか安定した経営ができないという課題解決の緒であることは明らかでしょう。

運営者の考える課題とやりたいこと

さて、Q28の「コワーキングの運営上で課題としていることは何ですか?」に対して、「集客・広報・広告(62.7%)」がトップなのは予測できたことですが、「利用者同士の交流・協業(47.8%)」、「ローカル経済に寄与するビジネスの創造(43.3%)」が上がってくるところなどは、まさにローカルコミュニティとしてのコワーキングの面目躍如と言ったところでしょうか。

またQ29の「今後、やりたいことは何か?」の問いに対しても目立ったのは、他のコワーキングとの交流もしくは共同プロジェクトでした。繰り返しますが、コワーキングの5大価値のひとつ「コラボレーション」はコワーキングそのものにも有効です。ぜひ、テーマを見つけて協業する機会にしていただきたいものです。

最後にQ30の「コワーキングを物語るエピソード」は、他のコワーキング運営者の参考なるかと思います。中には微笑ましくも涙を誘うお話もありますが、それもまた人をつなぐハブであるコワーキングの姿でもあります。

今回のアンケートは、コワーキング運営者の思考がどの方向に向いているかを知るいい機会となりました。これを、ひとつの行動指針としてご自身のコワーキング運営に役立たせていただきたいと思います。また、引き続き調査は続けていく予定です。

以上、2020年1月18日(土)〜2020年1月31日(金)に行われたアンケー調査結果について解説しました。

ご協力いただきました皆さま、誠に有難うございました。

(2019年度コワーキング白書)

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