〜トーキング・コワーキングVOL.14〜

(Text & 写真:伊藤富雄)

※この記事は「カフーツ伊藤のコワーキングマガジンOnline」の2025年3月29日の記事を一部編集して転載しています。

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昨晩の「トーキング・コワーキングVOL.14」は、兵庫県三田市の「OFFICE CAMPUS」を運営しておられる古家良和さんをゲストにお迎えして配信した。古家さん、ご参加いただきました皆さん、有難うございました。

例によってYouTubeにアーカイブして一般公開しているので、見逃された方は、ぜひ、こちらでご覧ください。

「OFFICE CAMPUS」は、明治後期に建築された築約110年の二階建て町家を改装した建物に、2019年10月7日にオープンしたコワーキング。

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今回のゲストである古家さんがコワーキングの世界に入る前の経歴が興味深い。

関西学院大学在学中からイベント企画やコミュニティ運営に関わり、卒業後は(その腕を買われたのだろう)大学職員として学内のラーニングコモンズのコーディネーターを務めてきた。もうここで、その後のコワーキングへの道筋がうっすら見えてきますよね。

ちなみに、ラーニングコモンズ(Learning commons)とは、一般に学生の学習を支援する大学図書館内の施設のことを指す。自習やグループ学習、講習会、セミナー、オンライン会議、ディスカッション、プレゼンテーションなど、さまざまな学修形態に対応する。

ただ、関学の場合、大学職員と学生で実行委員会を組織し、学生自らの企画によるイベント開催や、SDGsやまちづくりにテーマを求めてプロジェクトを進行したりもしている。

つまり、古家さんいわくコミュニティマネージャーのようなことを学生時分から実践している、ということらしい。実はいまどきの大学にはそういう施設があることは、お話を聞くまで迂闊にも知らなかった。いいなぁ、今の学生は。

ただ、その後、組織内でのカツドウであるが故のさまざまな問題(制限)が障害となり、肝心の学生に敬遠されるようになったとか。それを機に古家さんも離れるのだが、そこでの葛藤と反省があればこそ、今の「OFFICE CAMPUS」がある、と言う。つまり、自分の自由裁量権を行使できる立場を作るということですね。←これ、大事。

さて、ここで(そこからコワーキングにたどり着く、その前に)、卒業後、地域課題を解決することをテーマに、地域メディアを起ち上げていたことに注目しておきたい。

在学中からウェブメディア制作の経験があったので、その余勢を駆って、SNSを中心とした分散型の地域メディアの運営を始めるのだが、「人とつながるためにはまずメディアを作る」という発想はすでにあったとのこと。それもラーニングコモンズでの経験があってこそだろう。

この地域メディアがきっかけとなって地元の事業者ともつながり、デザインの仕事などを受託するようになったという。つまり、フリーランサーとして独り立ちしたんですね。

先に注釈しておくと、古家さんは「OFFICE CAMPUS」を自身の仕事場としても利用している。つまり、コワーキングの運営者であり、同時に利用者でもある。

これはぼくも同じで、これが案外大事なポジションで、利用者(コワーカー)ならどう思うか、考えるか、ということに自然と神経が働くようになる。いわゆるユーザー視点。

蛇足ながら、地元情報を配信する地域メディアとローカルコワーキングというのは、これまた親和性が高い。古家さん以外にも、メディアとコワーキングの開設時期の前後の違いはあれ、コワーキングと共にローカルメディアも運営している事例は各地にある。

そうしてメディアを介して各方面に関係を築くことになると、今度は地域活動にも一役買うように、やっぱりなる。で、そうこうしているうちに、「やっぱり場が必要」となってきた。そうして、三田市のあるプロジェクトの話から「OFFICE CAMPUS」開設へとコマは進められた。

ここで、古家さんのコワーキング運営上のコンセプトに注目しておきたい。特に、ドロップインをメインにしているというところに、ぼくは非常に共感する。

番組中にも言ってるが、確かに月額契約者が一定数おられると経営上は安定しやすい。しかし、毎日、同じメンバーが顔を合わせるうちに、どことなくマンネリ感が漂ってくるのも事実だ。それを「安心感」と取る人もいるが、ぼくはもっといろんな人との人間関係を自分から結んでいくことが、コワーカーにとって、これからの時代を生きていくのに不可欠だと考えている。ドロップインはそういう新しいつながりを作るのに貢献する。

なので、カフーツでもよっぽどの事情(例えば、身体的なハンデとか)がない限り、月額契約は取っていない。それよりいろんなコワーキングを訪ねていって、自分のネットワークを広げて「自分コミュニティ」を形成することをオススメする。まあ、中にはコワーキングと言いながらコミュニティ志向のないところもあるので、そういうところはさっさと退散するとして。

ちなみに、その「自分コミュニティ」の見える化する現場として、カフーツを「間借りコワーキング」として提供している。詳しくはこちらを。

古家さんは「自分も人とたくさん出会うことを目的にしたかったので、人の流動性が多くなるようにしたいと最初から考えていた」と言う。とてもいい考え方です。

その流動性が、ただ1箇所のコワーキングだけではなくて、広く各地のコワーキング全体の連動性と流動性を助長するはず。ぼくはそう思っている。

もうひとつ、ここで書き留めておきたいのは「ヘルパー」制度の導入だ。オープン当初はひとりで運営していたのだが、さりとて前述の通り、自分も仕事があり出かけなくてはならない時もある。といって、アルバイトを雇うほどでもない。

と考えてたら、仲良くなった利用者が「手伝いますよ」と言ってくれたことから始まったのが「ヘルパー」制度。←ここ大事。利用者がそのコワーキングの運営、ひいては維持継続に協力するということ。例のインディー・コワーキングだ。

ぼくもコワーキングツアーで神戸を留守にする際には、何人かの利用者に鍵を預けて協力してもらっていた。先の「間借りコワーキング」はその発展形でもある。

手伝ってもらうのなら利用料はいただかない。その代わり、給与はない。トレードオフでいい。これを続けるうちに、人つながりで続々とヘルパーが現れて、累計ではざっと見た感じでも20人はおられるというから、しっかり人つながりができている。

大事なのはヘルパーさんによって個性、カラーが違うというところ。そうすると、その日はその人のムードになる。「OFFICE CAMPUS」のコミュニティといえば、彼らが醸し出す空気のこと、と古家さんも言ってる。

それは当然なのだが、一方でその「属人性」を嫌う奇妙な風潮も一部にはあって、たぶんそれはコワーキングを単なる作業場、ハコとしか考えていないからだろうけれども、コワーキングが人と人をつなげる仕組みであることを考えれば、むしろ「属人性」があってしかるべしだとぼくは思っている。気に入らなかったらスタバでもドトールでも行けばいいだけの話です。

ここで古家さんは、非常に重要な発言をしている。「OFFICE CAMPUS」ではヘルパーだけではなく、利用者も積極的に片付けを手伝ったりする。

それをただで働かせてるみたいでちょっとした罪悪感もあったのだが、利用者は利用者で帰り際に「ありがとう」と感謝してくれる。で、古家さんも感謝でいっぱいになる。お互いに感謝のしあいをしている。←とてもいい関係がここにある。まさに、インディー・コワーキングだ。

他にも聞いていただきたい話、例えば群れない人たちが群れているという話や、ルールを作らず人間らしくあろうという話や、メンバー間であえて利害関係を作らない運営など、コワーキング関係者にはヒントになる話が目白押しなので、ぜひ、Youtubeをご覧いただきたい。

そして、最後の「コワーキングを一言で言えば?」の古家さんの答えが、とても気が利いていたので、これもご自分で確かめていただければ幸いです。