〜トーキング・コワーキングVOL.23〜
(Text & 写真:伊藤富雄)
※この記事は「カフーツ伊藤のコワーキングマガジンOnline」の2025年5月31日の記事を一部編集して転載しています。
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昨晩の「トーキング・コワーキングVOL.23」は、神奈川県逗子市の「AMIGO HOUSE」を運営する大倉 曉 さんをゲストにお迎えして配信した。大倉さん、ご参加いただきました皆さん、有難うございました。

例によってYouTubeにアーカイブして一般公開しているので、見逃された方は、ぜひ、こちらをポチッとしてご覧ください。
「AMIGO HOUSE」のサイトはこちら。
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「AMIGO HOUSE」は厳密にはコワーキング専門ではなく、ゲストハウスやシェアハウスも兼ね、その他にも多様なメニューを持つ施設だ。サイトの冒頭のこのコトバがそれを表している。
AMIGO HOUSEは、仕事場であり、遊び場であり、台所であり、農場であり、学校であり、寝室でもある。世界中の仲間たちに開かれた、アイデアや出会いが生まれる場所。ここに来れば、きっと何かおもしろい発見がある。いい風が吹いてくる。
人生という旅の途中で、あなたの自由な生き方を後押しする、僕らの家です。
ローカルコワーキングのひとつの理想がここにある。
大倉さんは、自身の考えるコワーキングや人が集まる場所について、公民館のようなイメージを持っていた時期があると言う。ぼくもまたローカルコワーキングを「現代版公民館」と位置付ける考えを持っているので大いに共感するところだ。
その「AMIGO HOUSE」の開設に至るまでの話から始まる。
・地域おこし協力隊時代の出会い
大倉さんは、愛知県名古屋市生まれ。最初のキャリアは広告会社で、その後ネットベンチャーに勤務、そして地域おこし協力隊などの経験を経て、2016年頃に神奈川県逗子市へ移住した。
地域おこし協力隊としては、岐阜県の白川村で活動していた。約3年間、合掌造りの家に住みながら、観光や自然に関わる仕事、移住促進の情報発信、空き家対策、文化財に関する提案などを行っていた。この時期は、国内外での仕事を通じて観光や自然に関わることへの興味が高まっていた時期であったという。
そんなときに、「CINEMA CARAVAN」と出会う。これが彼のその後の人生を変える。
「CINEMA CARAVAN」は各地を転々としながら、野外映画館を作るアートプロジェクト集団だ。

カツドウの場は日本国内のみならず世界中を旅して仕事している。5年に一回開催されるドイツの芸術祭「ドクメンタ(documenta)」やスペイン・バスク地方の「サン・セバスチャン国際映画祭」にも参加している。
また、地元の逗子海岸では毎年ゴールデンウィークに海岸映画祭を開催しており、これは旅するキャラバンが逗子に帰ってきて体験をシェアする場として機能しているという。
当時、大倉さんは白川村の役場職員として彼らを迎え入れる側であったが、チームと交流する中で、彼らと一緒に旅をすることに面白みを感じるようになった。
その白川村でのビデオもあったので貼っておく。
チームを構成するのはカメラマン、料理人、ミュージシャン、DJ、大工など、インディペンデントに活動する多様なクリエイターたちだ。それぞれが持つスキルを持ち寄って場を作り上げている。
こうした多様なスキルを持つプロフェッショナルが集まり、チームを組んで行う活動(仕事に限らない)は、コワーカー同士で、あるいはコワーキングスペースが窓口となってコワーカーとチームを組んで仕事を受託するカタチと同じ。
はい、これね。

大倉さんは「いわば運命共同体のような」と表現しているが、「共同体」はコワーキングにも通用する言葉だ。
「CINEMA CARAVAN」は、野外にスクリーンを立てて映画を上映する活動を行っているが、単に映画を見せるだけでなく、場をみんなで作ることを重視している。そこには、地元の人々の協力も不可欠だと彼は言う。
内と外とを融合させてプロジェクトを成功へと導くという姿勢、これもまたローカルコワーキングに共通することだ。再三出すが、「知の再結合」だ。
世界のワーケーションは次のフェーズに入っている 来てほしいのはデジタルノマド(カフーツ・伊藤富雄) | WORK MILL
・逗子での活動拠点「CINEMA AMIGO」と「AMIGO HOUSE」の誕生
「CINEMA CARAVAN」の活動ベースとなっているのは、逗子にあるミニシアター「CINEMA AMIGO」だ。毎日映画を上映しており、街の人々に愛されている。

「AMIGO HOUSE」の構想は、コロナ前の2019年頃に、大家さんの実家である庭付きの古民家の活用について相談を受けたことから始まった。大家さんはリノベーションしたもののその使い道に悩んでいたという。
大倉さんは、自身が旅やオンラインでの仕事が日常化していた経験から、逗子という街に何が必要かを考えた。逗子は都心から電車で1時間とアクセスは良いが、泊まる場所が少ないという課題があった。
また、自身が旅先でローカルな人々とつながるために、コワーキングスペースやカフェのような場所(旅の寄港地)を常に探していた経験も影響している。
これらの要素を組み合わせ、「泊まれるし働けるし遊べる」というベースキャンプのような場所を作ろうというアイデアが生まれた。
ちょうどコロナ禍に入り、以後はリモートワークやワーケーションが増えるという仮説も後押しとなり、逗子という自然が豊かで落ち着いた環境が、都心に近くかつ静かな場所を求める人々に気に入られるだろうという思いから、2020年9月に「AMIGO HOUSE」をオープンした。←そして、この仮説は正しかった。
なお、当初、「AMIGO HOUSE」は「CINEMA AMIGO」の別事業の業務委託として運営されていたのだが、現在は大倉さん自身の会社による運営に移行している。
・ローカルの内と外をつなぐ「AMIGO HOUSE」
「AMIGO HOUSE」には、「泊まる」「働く」「住む」といった基本的な機能に加えて、「耕す」「食べる」「遊ぶ」「学ぶ」「買う」といった多様なメニューが用意されている。
耕す(農):小さな庭で野菜やハーブを育てるなど、農的な暮らしを身近にすることを目指す。地域のごみを使ったコンポストなども行い、自然や環境への配慮を実践している。
食べる:大きなキッチンがあり、味噌作りなどのワークショップも開催している。
遊ぶ:逗子の海や山が近く、トレイルランなどが楽しめる。
学ぶ:アーユルヴェーダ(※)や確定申告、占術、暦読みなど、大倉さん自身がテーマをチョイスして学びの機会を提供している。
※アーユルヴェーダ=サンスクリット語で「生命の科学」を意味し、インド・スリランカで生まれた伝統医学。
買う:地元で捨てられるグリーンを使った洗剤を量り売りするなど、循環や環境負荷低減につながる選択肢を提供している。
それを図示したのがこちら。

これは大倉さん自身の経験や価値観、そしてローカルでのつながりから生まれており、「AMIGO HOUSE」が単なるコワーキングスペースではなく、豊かなローカルライフを実践するための複合的な環境であることを示している。
聞けばぼくの提唱する「コワーキング曼荼羅」も参考にしていただいたそうだが、ぼくもこれを参考にしたい。

こうして「AMIGO HOUSE」は、働く場所、起業のきっかけ、学びの機会、継続可能性の促進、あるいは地域住民の働く場、そして癒しの場(逗子は元々サナトリウムの町だった)、を提供することで内外の人々がつながる仕組みとして機能している。
そうそう、外といえば、国内のワーケーション利用者も増えている。2020年9月のオープンから間もなく、1ヶ月滞在のワーケーション利用者が現れたというから、先の「仮説」は図に当たったと言うべきだろう。
ときに宿泊者とコワーキング利用者が出会い、仕事の悩みが解決するきっかけが生まれるといった事例も頻繁に起こっているという。スバラシイ。
併せて、コロナ後は海外からのデジタルノマドの利用も増加している。特別な宣伝はしていないが、「嗅ぎつけてくる」ように利用者が訪れるという。そう、彼らは彼ら独自の情報ルートを持っている。以前も紹介したここなんかはそのひとつ。

コワーキングスペースと宿泊施設が一体となっている「AMIGO HOUSE」は、長期滞在を促し、地元住民と外部からの訪問者との接点を増やす上で非常に重要な役割を果たしている。
事実、「AMIGO HOUSE」には、ありきたりな宿ではなく、人との出会いや場を求める人、脇道やニッチな場所を好む人が集まってくるという。アメリカからの利用者が「逗子は普通の道では満足しない脇道が好きな人が来る場所」と表現したエピソードは、まさに言いえて妙だ。
かと思うと、移住前の一時的な滞在場所として利用する人も多い。オドロイタことに、引っ越し先が決まらないまま、いわばつなぎの居場所として「AMIGO HOUSE」に滞在する人もいるらしい。それって、まるっきりノマドだ。
中には、家を出たい大学生が駆け込んできたこともあったというから、いわば現代の駆け込み寺的な存在にもなっている。まあ、ローカルコワーキングは、「まちのよろず相談室」でもあるのであながち間違ってはいない。
これらの多様な要素が、「AMIGO HOUSE」を拠点にローカル、そして国境を越えた波及効果を生み出している。
また、長期滞在者が多い「AMIGO HOUSE」では、利用者同士がある種の共同体となり、互いの体調や状況を気にかけ、声をかけ合ったり、代わりに宅配便を受け取ったりといった助け合いが自然と生まれている。
さらにスタッフが不在でも、利用者が他の利用者を案内することもあるなど、自発的なサポートが行われている。これまさに、「インディー・コワーキング」の体をなしていると言える。
地域に根ざした中小のインディー・コワーキングこそがコワーキングの本質的価値を提供している件:今日のノート#536(2025-05-07)|カフーツ伊藤
うち(カフーツ)がやっている「間借りコワーキング」もそのいち形態。言い換えれば、主宰者がいなくとも、利用者が協力して自発的にその環境を維持することに加担するということ。そうなるともう、彼の言う通り「共同体」だ。
・今後の展望と課題
大倉さんの今後の展望として、2号店の構想がある。具体的な候補地はないが、逗子以外も含めて、新しい場所で「AMIGO HOUSE」のような場を作ってみたいと考えている。いいですね。
ただ物理的に店舗数を増やすのではなくて、「AMIGO HOUSE」で実践されている、まさにローカルコワーキングらしさが他の地域でも実行されることを期待したい。
また、自身が写真や映像の仕事もしていることから、「AMIGO HOUSE」という場を使って、ご自身の表現活動もしていきたいと考えている。これも楽しみです。
一方、課題としては人材を挙げている。やりたいことはたくさんあるが、一人でできることには限界がある。「AMIGO HOUSE」の運営には多様なスキルや臨機応変な対応が求められ、腰を据えて任せられる「チームメンバー」のような仲間を増やしていくことが必要だと感じている。
人材育成の難しさは、コワーキングに関しては永遠の課題だ。こうやればいいというフォーマットやマニュアルはあるようで実は、ない。毎日違う展開をするコワーキングでは、以前も書いたが相応のスキルとセンスとホスピタリティが必要で、これがなかなか高度な能力を要求する。
加えて「AMIGO HOUSE」の場合、宿泊もあるのでさらにハードルが高い。それだけにじっくり取り組むことになるのは必至だろう。
・大倉さんにとってコワーキングとは
さて、最後の質問、大倉さんにとってコワーキングとは一言で言うと何か?という問いに、彼は「映画」や「舞台」という言葉で答えた。これには唸った。
毎日異なる出会いがあり、喜びや悲しみといったドラマが生まれる場所。それは、自身がハンドリングする仕事場であり、パフォーマンスを発揮する舞台でもある。
そして、利用者もまたその舞台の演者や登場人物であり、毎日脚本が変わるように、常に新しいことが起こる場所である。そうか、確かに「映画」でもあり「舞台」でもある。
ここで「CINEMA CARAVAN」での体験とつながるわけだ。なるほどなぁ。
このビデオをご覧になって興味が湧いた方は、ぜひ「AMIGO HOUSE」にお出でいただきたいとのこと。
特に夏は海の家が出て、ビールを飲みながら富士山や夕日が見られる最高のシーズンであり、仕事終わりにリラックスするにも良い時期だ。ぼくもいずれ伺いたい。
なお、ここでは割愛したが、台湾のデジタルノマド政策についての情報共有もあったので、お時間あれば、ぜひビデオを視聴ください。