東京初のコワーキングオーナーが、「鋸南エアルポルト」に新たにコワーキングを開業するワケ

(Text:白馬ななか 写真:白馬ななか、鋸南エアルポルト)

PAX Coworking Kyonanが入居する「鋸南(きょなん)エアルポルト」は、千葉県の南房総の入り口で、人口7,250人ほどの小さな町、鋸南町の保田(ほた)エリアにあります。アーティスト・イン・レジデンス(AIR)と、コワーキング(PAX Coworking)を中心とした複合交流施設です。地元民の間でも「おもしろそうな場がある!でも、何をしているの?」と、話題に上ることもしばしば。そこで、オーナーの佐谷恭さんにお話をうかがいました。

ちょうどいい距離感、ちょうどいいサイズ感の田舎町

2010年、東京で初めてコワーキングを始めた佐谷恭さんが開業した「鋸南エアルポルト」。佐谷さんという名前を聞けば、あっ?あの人だ!とわかる方は、“ツウ” です。

佐谷さんは、東京は世田谷区経堂で世界初のパクチー専門レストラン「パクチーハウス東京」を経営していた方。そして、同じビルで東京初のコワーキング(PAX Coworking)を始めた方でもあります。大人気店だったパクチーハウス東京を2018年3月に閉店し、1年半ほど経て突然始めたのが、千葉県の田舎町、鋸南でのアーティスト・イン・レジデンスとコワーキングでした。

なぜ田舎町でコワーキングを開業することになったかというと、ズバリ、「なんとなく縁を感じたから。それで講演を兼ねて何度か足を運ぶと、町や人への愛着が出てきた」と、物件を紹介されて早くも3か月後には決めていたと言うのですから驚きです。

実際に鋸南と深くかかわり始めてから、佐谷さんにはすでに新たな発見があったようで、コミュニティの場を町の中へと広げ、体感されていました。

「町のサイズが適度にコンパクトで、人と人が繋がりやすいよね。土地柄なのかみんな温かく朗らかで、道を歩いているだけで話しかけられるし、気にかけてくれる」。

そして、東京など都市部からのアクセスもよく、コワーケーション(旅先のコワーキングで仕事をしながら、滞在地で休暇も楽しむワークスタイル)にぴったりの田舎感なのだそうです。「海も山も気軽に楽しめるちょうどいい距離にあるので、仕事と遊びを自由に行き来でき、非日常感も味わえるところも魅力」。

仕事の前にSUP、仕事の合間に桜並木や水仙ロードをRUN、近くには鋸山(のこぎりやま)というノコギリの歯のような岩肌の稜線や石切り場跡、それに地獄のぞきという低山登山スポットもあり、自然遊び好きにもたまらないかも。そのすべてが「鋸南エアルポルト」から徒歩圏内なのもうれしいポイントです。

地元民の私も、鋸南町は海と山と里がギュッとコンパクトにまとまっているところがお気に入りです。波間に落ちていく夕陽と、空気が澄んでいる日に東京湾越しに見える富士山は、ぜひ一度鋸南に足を運び、実際に潮風を肌で感じながら体験してほしい風景です。

旅と平和とパクチー、そしてアートXコワーキングの可能性

学生時代から世界中を旅している佐谷さんですが、「株式会社旅と平和」の創業者としても旅と平和に関して人一倍強い想いがあります。

「ぼくがしている“旅”は、自分の人生観を作ったと直感的に感じる“旅”。そして、“旅”とは単なる旅行のことではなく、自分でチョイスするという自発的な行動のことであり、自分で自分の行く先を切り開いていける人のこと」。

また、「平和は他者から吸収できるし、自分で発見できる」とも。「例えば外国と日本、都会と田舎など、日常の些細な文化の違いを見るいろいろな視点を持ち、かつその視点を広げられる人こそが平和をつくる可能性があると思う」と語ります。

「コミュニケーションの中に新たなヒントがあり、それを次に生かしていきたい。みんなが友達のような雰囲気で、楽しそうな様子を見るとぼくもうれしくなる。「パクチーハウス東京」のときは、その新しさやワクワクを共有する場のアイテムが飲食店であり、創業当時はまだ日本ではマイナーであったパクチーも、ワクワクアイテムのひとつだった」。

そんな佐谷さんが、次の活動の拠点として開業したのが、「鋸南エアルポルト」。そこで行われるアーティスト・イン・レジデンスとは、アーティストが日常と異なる環境に数日から数ヶ月間身を置き、その地の人々との交流を通して創作活動を行うことを言います。

そこにコワーキングやコミュニティをミックスすることで、全く違う感性をもち、全く違う活動をしている人たちが集まる。その空間自体が異質であり、コミュニケーションを通じてお互いに刺激をうけ、創作欲を掻き立て、新しい創造の場に変わるのは想像に難くないでしょう。

例えば、「鋸南エアルポルト」では、アーティストがインスタレーションを準備したり、陶芸家が粘土をこねている横でコワーキングする方がいたりします。そこには違和感がないだけでなく、なんだか面白いコラボが今にも起こりそうな予感がするのは、私だけではないはず。

東京を経由せず、世界と鋸南が直接つながる「場づくり」

「ありえないをブームにする おもしろいが人生を、世界を動かす」のスローガンをかかげ、コミュニケーションのある場づくりと誰もがしたことのないことを体現し続ける佐谷さん。「鋸南エアルポルト」での活動においては、「東京を経由せず、世界と鋸南が直接つながる!」という壮大なテーマを持っています。

地元民の私の感覚からすると、田舎の小さな町でそんなことはまずあり得ない、数年先をリードし続ける佐谷さんの発想にはついていけない、と思ってしまいますが、インターネットがこれだけ社会に普及した今の時代なら、まんざら夢でもないのではないかと期待に胸が膨らみます。

そして、「ビジネスに安定は求めない」とも。

「自分で考え、自分で行動することが好きなので、これをこうしたらどうなるのか?と、実験することのワクワク感がたまらないんですよ」。

どうやら佐谷さんには、「ここに来ればうまくいくという安心感」は要らないようです。

パーティーでスパークし、シャルソンで町を体験する

「鋸南エアルポルト」では毎週、夜のパーティーが行われています。毎回、独創的なテーマを設定したり、世界の平和を祈って外国の料理をみんなで食すなど、ただ食べて飲むだけではなく内容にもこだわりがあります。

実はこのパーティー自体が、鋸南町近隣住民と都市部から来る方のコミュニティの場になっており、今まで出会うはずのなかった人同士が結びつき、新たな取り組みが始まるエネルギーがギュッと充満しています。

地元X地元、地元X都市部、のつながりの中に異業種の化学反応も起こり、ビジネスはもちろんのこと、地域の活性化の一助にもなり、コミュニティが地域の新しい価値の創出の場にもなっています。このパーティーのことはFacebookで確認できるので、要チェックです。

そして最後にもうひとつ、シャルソンというイベントについてもお伝えしておきましょう。シャルソンとは「ソーシャル」と「マラソン」を掛け合わせたもの。シャルソンの生みの親も、他ならぬ佐谷さんです。

あらかじめ決められたコースを走るマラソンと違い、参加者は町中の好きな場所を走り(歩いても自転車でもクルマでもOK)、途中で飲んだり、食べたりしながら、その日、一番面白い体験を写真に撮って持ち帰った方が優勝という、およそマラソンの観念をまるっきり変えたイベントです。唯一の決まりごとは、ゴールの時間までに必ず帰ってくること。なぜなら、そのあとのパーティーでわいわいと楽しむことがメインイベントだからです。

このシャルソンが、この春、いよいよ鋸南でも始まります。これも世界につながる一歩です。今後の「鋸南エアルポルト」の展開を、どうぞお楽しみに!