宿泊できるコワーキングスペースからまちづくり〜佐用町への想いと会計士オーナーの挑戦〜
(文:鈴木あすみ、写真:コバコWork&Camp)
生まれ育った故郷への愛が生み出した小さな箱
「佐用町の人たちの集まる場所を作りたい、仕事づくりのお手伝いがしたい」という店主の想いで2018年5月に“宿泊できるコワーキング「コバコwork&camp」”(以下、コバコ)は、兵庫県佐用町にオープンしました。コバコの会員がコワーキングスペースを使う傍ら、佐用町で活躍する方々がカフェやネイルサロンをコバコ内で開催し、高校生からお年寄りまで幅広い世代の人たちがコバコに出入りしています。
佐用駅前すぐのコバコは、電車によるアクセスがとても便利です。“泊まれる”コワーキングスペースなので、その名の通り宿泊可能。出張で利用する方もちらほらいらっしゃいます。コバコに泊まるとコワーキングスペースを自由に利用できるため、旅好きのノマドワーカーの皆さんには声を大にしてオススメしたい場所です。
このように町外からも気軽に来られるコバコは、「ローカルと都市と人を繋ぐ」コワーキングスペースを目指し日々運営しています。
コバコを運営するコバコ株式会社は、税理士・公認会計士の谷口悠一さん(兄:上写真右)とインテリア・空間デザイナーの慎哉さん(弟:上写真左)の佐用生まれ佐用育ちのthe地元っ子である兄弟によって設立されました。
兄の悠一さんはスタッフや利用者からは「店主」(以下、悠一さんを店主)と呼ばれ親しまれています。そして、コバコのおしゃれな空間は弟の慎哉さんのデザインによるものです。普段は大阪にいる慎哉さんですが、店主と同じくらい佐用愛が強い方です。
なぜ兄弟はコバコを作ろう思ったのか?そこには、佐用町の悲しい過去と佐用町への強い愛があります。
それは11年前の2009年8月のことでした。その日、記録的豪雨により大規模な水害が佐用町を襲い町全体を飲み込み多く犠牲者が出ました。この水害は、メディアでも大きく取り上げられ「兵庫県西・北部豪雨」と名付けられています。
今コバコがある場所も、1mくらい浸水しました。現在では、街並みも改修され見かけ上は復興したように見えますが、水害による空き家の問題などがあり、まだまだ完全には復興しきれていないのが現実です。
水害によって消えようとしている町を盛り上げる立場の人が少ないために、佐用がどんどん寂れていくさまは、当時の話を聞くだけでなく現在の佐用町を見ても伝わってきます。
そんな中、店主は大手監査法人に勤めながらも心の片隅で「地域で仕事を作る人のお手伝いがしたい」と考えていたそう。そして監査法人での経験を積んだ後、ずっと心の中に秘めていた想いを弟の慎哉さんへ相談したそうです。
同じ想いのある慎哉さんは、兄の想いに賛同、それをきっかけに店主は佐用町へUターンします。そこから、コバコの設立に向けて兄弟と頼れる多くの仲間たちが動き出しました。
「田舎では仕事が選べない状況がある。仕事はたくさんあるが仕事の選択肢が限られている」と、よく聞きます。実際に昨年就職した地元の高校生60名のうち、佐用町内で就職したのは、たった3名しかいなかったそうです。さらにコバコに来る常連さんも、佐用町には雇用が少ないとよく口にします。
確かに、田舎には都会に比べると会社も少ないのが現実です。よくアメリカの映画なんかで見るように、炭鉱の町には炭鉱の仕事しかなくそこに就職するのが当たり前なんて風習もあったりします。そうするとやっぱりその他の仕事を求める人が都会に出て行き、人口が減っていくという問題を抱えてしまいます。必然的な結果だと思います。
以前から佐用町の雇用問題について考えていた店主は、会計士である自分の強みを生かして「佐用町にワクワクする仕事をつくるサポートをしたい」という想いでコバコを立ち上げました。実は店主だけでなく、佐用町には多くの人が町を良くしようと活動されています。
そんな佐用町で頑張るみなさんが、情報交換のために集まる場所が少なかったこともコバコをつくるきっかけでした。つまりコバコは、佐用町の問題である「仕事が少ない」と「集まる場所が少ない」のふたつが解決されるハコとして作られました。
佐用町への愛がなかったら、町が抱える問題を真剣に考え行動に移すことは難しい。コバコはそうした店主と弟の慎哉さんの佐用町への熱い想いが詰まったコワーキングスペースです。
ちなみに、コバコという名の由来は、スモール(小さい)ビジネスをする人を応援する場所(箱)という意味での「小さい箱」、つまり「小箱=コバコ」からきています。個人的にはお客様がコバコに来ることを「来コ(らいこ)」、コバコから出るときは「出コ(しゅっこ)」と言うのがすごく好きです。
コバコを多くの人に愛される場所にするために
コバコでは、コワーキング以外の目的で来店する町民の姿を見かけます。店主がコバコを作るときの想いに賛同したスタッフ達が、そのビジョンを大切にして運営しているからに他なりません。実は私もその想いに心引かれ、今年の1月からその一員に加わりました
スタッフの一人である神原さんは、コワーキングスペースを管理する頼れる3児のママ。彼女は、コバコを佐用の多くの人に知ってほしいと考えています。そのため町内のケーキ屋さんを呼んでカフェをしたり、町内や近隣で活躍されているクラフト作家さんの雑貨を集めて販売したりと、町民がコバコへ来店しやすい雰囲気を作り出しています。
神原さんは、「コバコ内だけで盛り上がっていてもしょうがないと思うんです。佐用の人にコバコは何をしているところか知ってもらって、愛される場所にしたい」と言います。これは、ローカルで仕事をするときにすごく大切な事ですが、初めから周りに理解してもらうことはなかなか難しいのも事実で、田舎ならなおさらです。
彼女はコバコという場所を2年間かけて少しずつ町内に広め、来店する人を増やして来ましたが、まだまだ町全体にはコバコが何をしている場所なのか周知できていないのが現状です。今後、地域に「愛されるコワーキングスペース」を目指して、どのような仕掛けをしていくか楽しみです。
そんなコバコで企画・運営したのが「SAYO MADE」というイベントです。
毎週コバコ内で販売を行うお馴染み「赤い実」さんの美味しいケーキや、佐用町のママたちにより結成された「MAMAMADE」さんや「tamariba’s made」さんが一つ一つ丁寧に作られた雑貨が販売されました。また、普段生花を取り扱う「盛岡生花」さんは、ドライフラワーのアレンジメント品を販売、さらに、コバコスタッフの一人もネイリストとして出展しました。
コロナ禍で換気を行い三密を避けての運営でしたが、その結果は、大盛況。コバコのことを知らなかった通りすがりの方も気軽に立ち寄り、素敵なイベントになりました。
また、コバコには誰でも利用できるイベントスペースでもあります。先日は、役場と佐用高校の生徒が協力して佐用町の特産品を加工、開発した「もち大豆パウダー」と「トマトソース」のお披露目及び販売会をコバコで開催しました。私もちゃっかりゲットしたこの商品、即完売となりました。
成人式の二次会や地域おこし協力隊の事業報告会といった町のイベントでも利用されています。一方、個人の得意を生かして行う小さなイベントも定期的に開催され、コバコの名に相応しいスモールビジネスが展開されています。前述の「盛岡生花」さんも、ここでドライフラワーリースのワークショップを開講しています。
こうして町のさまざまな活動にコバコが利用され、佐用町の人が集まる場所になっています。
佐用の抱える社会的課題をビジネスを通じて解決したい
コバコ株式会社は、佐用町の主催で2021年2月に開催される「さよう星降る町のビジネスプランコンテスト」(以下、「さよう星降るビジコン」)の事務局をしています。
応募は町内外から44件もあったそうなので驚きです。現在は一次審査まで終了し、そのうち30件が二次審査へと進んでいます。どの事業が選ばれるのかまだわかりませんが、今後の佐用町を大きく変えていくひとつの要因になることは間違いありません。
そもそも、なぜ今さらビジコンなのでしょうか。ここまで読んだ方はお分かりですね。
そうです、「雇用が少ない佐用町に仕事をつくりたいから」。でも、目的はもう一つあります。それは、「佐用町の抱える社会的課題(空き家問題や人口減少など)をビジネスを通じて解決したいから」です。
佐用町が抱える社会的課題は、日本国内の多くの地域で抱えているそれと同じです。今回の「さよう星降るビジコン」で佐用町が抱える社会的課題を解決できたら、日本国内はもちろんのこと、未来の世界の社会的課題の解決にも繋がるかもしれないという可能性も秘めています。
さらに店主は「さよう星降るビジコン」の目的をこう語ります。
新しい仕事を作っていくのは起業家や事業家です。そういった人たちが動きやすくなる雰囲気が地方の町に必要だと思っています。ビジネスコンテストでは、人生をかけて挑戦する人たちがプレゼンテーションを行います。
起業や新しいことにチャレンジしている人がカッコいいという雰囲気が出てくれば地域は変わると思っています。長くやることで少しずつ地域の空気感が変わっていけばいいなと思います。
コバコはコワーキングスペースとしては、まだまだ成長段階のハコです。今回の「さよう星降るビジコン」の結果によって佐用町の雰囲気が大きく変わることで、来コするメンバーが増えるのではないかと思うと、今からワクワクしてしまいます。さらに店主の仕事をつくるサポートをしたいという想いが現実に近づいていることは、スタッフとしてもとても嬉しいところです。
来コしてみませんか?
佐用町の人が集まる場所であり、仕事が生まれていく場所を目指すコバコ。店主の佐用町への想いから始まり、今では多くのスタッフや利用者に支えられて少しずつ目指す形になってきていると感じます。
そしてコバコの魅力はそれだけではありません。佐用駅を降りてすぐ目の前のコバコは、「泊まれるコワーキング」の名の通り宿泊が可能です。
リモートワークやワーケーションが当たり前になりつつある今、ローカルの人と都会の人の双方が語り合ってつながりを持つ場所として、宿泊できるコワーキングスペースは今後ますますニーズを増していきます。
そうした人たちがコバコで交流することで、新しいビジネスが生まれる可能性を作りたいという想いから宿泊施設を設けています。旅好きのノマドワーカーの皆さんに声を大にしてオススメしたいポイントです。
コワーキングスペースの奥にあるコバコ暖簾の向こう、1階と2階にひと部屋ずつ、5名様まで宿泊できる部屋があります。宿泊のご予約は、コバコのウェブサイトの右上「宿泊予約」からどうぞ。
ちなみに、コバコに泊まるとタイミングがよければ会計士である店主と知り合えるというチャンスもあります。そんな時、ビジネスのエキスパートとの話が新しいアイデアに繋がる予感がするのは私だけでしょうか。
ここ佐用の町で、人と人との繋がりを生むコワーキングスペース、コバコは毎日活き活きと活動しています。あなたもぜひ時間を取って佐用に足を伸ばし、コバコに宿泊して新しい出会いを楽しんでみてはいかがでしょうか。